B.T.T.B. Back to the basic そして、透明な世界へ

資本論の価値論に関する論説 等

AI時代の語学関係者のあり様とは 第2回

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こんにちは。


今日、掃除を終えて、食事の準備をしていたら、テレビの『モーニングショー』で、まさにAIの採用によってアメリカではコンピュータ関連の人材の採用が減っていて、そのような職に就こうと思っていた若者は、かなり手こずっている、ひいては、日本も同じ状況にいつかは、なるかも、という内容を扱っていました。なお、午後からは『ひるおび』でもAIを扱っていました。そうなると、もうこれは偶然ではなく、日々話題になるのがAIである、ということですね。


私はすでに予備校講師を辞めており、英語を教えることもないのですが、資本論の翻訳をして本を出していますし、これからも2年程度は同種のことを行おうと思っています。AIを迎えた状況は語学講師や語学関係者にとっては考え所・ターニングポイントだと思いました。それを第1回のAIの解答から考えみたいと思います。


まず、私の方の質問は、資本論現行版の一文をコピーして、「構造を教えてください」としただけです。今までAIには全く興味がなかったのですが、一週間ほど前から、3文ほど試してみました。全て資本論の中の文だったのですが、私は質問に、それがマルクスの資本論の一部であるとは全く書き込んでいませんでした。しかし、AIの方は回答の全てに「マルクス」という名前を出してきました。これは膨大なデータベースを元にしているのでしょうから、当然と言えば当然でしょう。知識の上ではAIに勝つのは難しそうです。


ちなみに私がChatGTPを使用している理由は、AI自体に興味をもったことと、一度試してみて、それなりの回答が得られたので、確認のために使えるかも、と思ったからです。この独文に関してもそうでした。


そして、先に申し上げると、私の考えとChatGTPの回答は完全に一致していました。つまり、正しいと判断しています。で、この、ChatGTPからの回答を読んで、私が「正しい」と判断する、という一連の過程が重要だと考えています。


前回の記事における、ChatGTPの回答は以下のように組み立てられています。


1 全体の骨格

2 主語部分

3 関係代名詞節の構造(内部の修飾要素の構造と意味も)

4 主節の構造と意味

5 wenn節(英語のwhen節にあたる)の指示語の指示対象と修飾要素の構造

6 (全体の)構造図(ツリー図)

7 全体の意味(直訳と自然な日本語の2つ)

8 マルクスがこの文で言いたいことの図式的説明


まあ、素晴らしいとしか言えません。私の質問、つまり「構造のあり様」に対して答えるなら、こう構成して、こういう流れで回答するのが理想でしょう。正直言って、私はこの構成で回答をしてきたことに驚きを禁じ得ませんでした。


 では、細部を吟味してみましょう。回答の構成や内容自体には全く問題はないので、問題、ないしは、今後の課題だと思えたことのみに絞ります。


考えるべきは、訳文に関して、ですね。


ChatGTPの「直訳」は、

「労働の生産性、したがって労働によって供給される使用価値の量を増大させるその同じ生産力の変化は、その増大した総量を生産するのに必要な労働時間の総計を短縮するならば、したがってその増大した総量の価値量を減少させる」

です。


ChatGTPの「自然な日本語」は、

「労働の生産力の向上は、使用価値の総量を増やすが、その総量の生産に必要な労働時間を短縮するかぎり、その総量の価値を低下させる。」

でした。


私の訳出は、

「そのように、労働生産性を高めるような、したがって、同量の労働が供給する使用価値の分量を増やすような、生産力の変化が、同時に、前より増えた使用価値の分量全体の価値の大きさそのものを減少させるのである。つまり、その生産力の変動によって、それらの使用価値の生産に必要な労働時間が短くなる場合には、そうなるわけである。」

でした。ちなみに、「したがって」は、「つまり」としたいのですが、daherにその訳を掲載している辞書はないのです。


ChatGTPの「直訳」は、かなり不自然ですね。「…ならば、したがって…」という流れが特に変です。また、「自然な日本語」は、むしろ要約になっています。


私の訳の方は、今回の本では、独文の構造を把握するヒントにもしてもらいたいということもあり、直訳でもなく意訳や要約でもなく、できる限り構造を反映させながら、日本語として理解しやすい文を目指しています。なんといっても相手は資本論の最難関の価値論の箇所なのですから、内容理解が重要です。


die Fruchtbarkeit der Arbeitは、もちろん「労働の(生産力の)向上」なのですが、私はそれを「労働生産性を高める」と、動詞的に訳出しています。これは、関口存男(つぎお)さんがおっしゃっておられる通り、英語やドイツ語が名詞中心の言語であるのに対して、日本語は決して名詞が中心になっていないという点を(無意識に)反映しています。これが資本論の商品を中心とする視点からの記述を理解するのを困難にしているという側面があります。ですから、日本語として自然な訳を提供するなら、それは人間の視点が中心になりかねないので、そこにはモノを中心とする解説が必要になるわけです。よって、初版の価値論を扱った『透明な世界へ 第1部』は550ページに及んだのです。もちろん、上記の私がしたような訳を、講義で示す必要はありません。むしろ、やや直訳的な日本語の方が、復習の時には生徒に役立つことでしょう。ただ、私が英語科の予備校講師を始めた頃、1980年代は、上記の様な訳をしないと生徒の方が満足しない、という雰囲気がありました。


つまり、まず、訳の面から、語学関係者としてChatGTPの回答を考えるなら、ChatGTPの回答は、私の質問の仕方にもよるのでしょうが、「目標が定まっていない」わけです。どの程度まで、訳をわかりやすくするべきで、どの程度固い訳をするべきなのかという、外的要因からの調整がつけられておらず、直訳と自然な訳との距離が離れているのです。


ここには、外的要因、つまり、「場」というものが存在していないのです。私がいったい誰で、自分=AIがいったい誰=どういう立場で、何を目的に回答を提示するのか、という、暗黙知が存在していないのです。私の場合は、相手を高校三年生程度の英語の知識と常識と教養をもっている人たち、という想定をしています。


このことは、一定程度、実物の講師と話をしたことがない場合のビデオ講座などにも当てはまるでしょう。レベルを想定して講義内容を構成しているとはいえ、そこにはどこかよそよそしさがあります。このブログも一体どこの誰が読んでくれているのか、ほとんどわかりません。ただ、人間は今後このような形のコミュニケーションをしていかなければなりませんし、そのツールは増えつつあります。ですから、上記の「場」というものを、世界規模で考えていくしかないと思いますし、それに順応するのが大切です。


まあ、私が情報を与えていないにも関わらず、この文がマルクスの資本論中の一文であると判断しているところからすると、日本人のくせにドイツ語の、しかもマルクスの資本論中の古語の文の構造を知りたいと言っているのだから、ある程度の知能はあるのだろう、と判断して回答しているのかもしれません。そうだとしたら、すごいことですが。この回答の全てを理解するるとしたら、質問者には、少なくともドイツ語検定3級程度の知識は必要でしょう。英語で言えば、高校1年生程度の知識(ただし、その完璧な知識)でしょう。


例えば、主語と判定されているDerselbe Wechsel der Produktivkraftがなぜ主語と判定できるのかと言えば、Wechsel「変化」が男性名詞で、主語の場合、定冠詞ならderとなり、derselbeの場合なら、主語の場合、derselbeとなり、他の形はとらないから、と説明することになります。これがderselbenとなっていたら、目的語になっているはずです。また、der die ...の箇所も、derがあって、その後すぐにdieが来るなら、derは関係詞で、その導く節内で主語であろうから、先行詞は男性名詞のWechselであろうと判断できる、つまり、定冠詞や関係詞が連続することはないという経験知や、性に関する知識が背景にあって判断が可能なわけです。一応、ドイツ語の文法全体を簡単にでも網羅している本を一冊読んで頭においていないと、回答が正しいと判断できない、ということです。また、der Produktivkraftが2格(属格)で前のWechselを修飾しているという判断も同じで、Kraft「力」が女性名詞で、2格の際、定冠詞dieの2格derとなるし、「生産力の変化」と捉えて、前後の文脈にふさわしいと判断できるためです。つまり、AIの回答が正しいと判断できる力が必要なのです。ですから、語学に関しては、少なくとも疑念がある場合には、調べきれるだけの力と情報が質問者には必要です。質問をして、回答を得て、確認ができる、という一連の流れができてこそ、AIは使うことができると言えます。


ですから、たぶん、現在、相手のレベルを知り、それに合わせて解説を行うことが可能な語学講師はまだ安泰です。しかし、AIが、学習を積み重ね、一定の相手と何度も同じ様な対話を続け、そのことによって質問者のレベルを理解することが可能であるとしたら、解説は変わってくるのかもしれません。私の上記のような解説をしてきたら、AIは質問者のレベルを把握しているということになるでしょう。そうなると、語学講師は必要になるのか。もし、どうしてそうなるのか、という理屈を教えることができない講師であれば、必要ではなくなるかもしれません。つまり問題は理屈であり、論理なのです。


逆に、語学講師も含めた語学関係者は、自分の判断が正しいかどうかの最終判断としてAIを利用することには価値があると思います。そうすれば、自信をもって語ることができますから、後はその判断をどのようにわかりやすく、納得がいくように受講者や読者に伝えるのかを余裕をもって考えることができるでしょう。あるいは、受講者及び読者がどのように間違える可能性があるのか、ということを考えることもできるでしょう。私も確認のためにAIを活用していきたいと思います。


ただ、やめた方がいいと思われる使い方は、もうお分かりの通り、自身で考えがまとまっていないのに、先に答えをAIに求める、というものです。これは馬鹿者が行うことです(行動について言っています)。例えば今回の例では、主語がDerselbe Wechsel der Produktivkraftだと教えてもらってから、和訳をする、というものです。これではドイツ語の習得になりません。すべての文章をAIに尋ねなくてはならないことになります。そういう意味では、勉強に関しては、あまりAIから影響を受けない方がいいとも言えます。小林秀雄さんが、講演会で「うまく質問してくれよ。そうしたら答えはもうでているようなものだからな。」と言っていたのは、AIに対する態度として肝に銘じておきたいものです。この、「うまい質問」とは、質問する以外の関連事項に関しては、ほぼ理解していている上での質問、ということでしょう。前回、誹謗・中傷に対して、頭がよく、教養のある者なら、そんなものは無視できる、あるいは、怒りを押し隠しておける、というショーペンハウエルの言葉を紹介しましたが、教養があれば、くだらない誹謗や中傷は、受けた人にとっては「意味のないこと」として処理できていることであるわけです。自分の中にどれだけのものがあるか、ということの方が、外部にどれだけのものがあるか、よりも重要だということでしょう。


それにしても、最後にマルクスの言いたいことを図式化してまとめてくれているのには、驚きますね。それは求めていないって。おせっかいですね。


さて、AIを味方につけて、自身をレベルアップできるか、それとも、AIにやられてしまうか。この速度でAIが進化しているところを見ていると、落ち落ちしていられなさそうです。

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